荻窪Doctor’s コラム末梢動脈疾患

2022.07.25(2022.07.26更新)

下肢動脈に対するカテーテル治療の歴史と現状

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「下肢動脈」から始まり、「冠動脈」に応用されてきたカテーテル治療

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に対するカテーテル治療は、1977年、Dr. Gruntzigが初めてバルーンによる冠動脈拡張を試みて以来、約四半世紀後に薬剤溶出性ステントが登場。現在では初期成功率95%以上、(治療部位の)再発率は5-10%となり[1][2][3]、我々臨床医が安心して患者様におすすめできる治療となっています。

下肢動脈に対するカテーテル治療は、冠動脈よりやや早い1964年、Dr. Dotterにより初めて施行されました[4]。 Dr. GruntzigはDr. Dotterのもとで仕事をしており、1974年に大腿動脈に対するバルーン拡張を行ったのち[5]、その技術を冠動脈治療に応用したのです。

私は1994年に医師になって以来、両者の治療に携わってきましたが、カテーテル治療の技術や機器の進歩は、下肢動脈より冠動脈の方が先行しているように感じていました。冠動脈は、次々に新しいデバイスが出現し、薬剤溶出性ステントの出現により安定した長期成績が得られるようになり、成熟した感があります。一方、下肢動脈、特に浅大腿動脈領域においては、決め手となるようなデバイス・治療法はまだ出てきていません。それはなぜでしょうか。開発が遅れているのでしょうか。

そこで、冠動脈と下肢動脈に対するカテーテル治療の歴史や進歩を年表にして比較してみました(下記参照)。太文字は、我々臨床医に多大なインパクトを与えたイベントであり、その後の標準治療の設定に影響を与えています。特に、冠動脈における薬剤溶出性ステント(Drug-Eluting Stent: DES)の“再狭窄率0%”が報告されたときは、大変な衝撃を受けました[1]

■冠動脈および末梢動脈インターベンションデバイスの発展(※クリックすると拡大画像が表示されます)

■冠動脈および末梢動脈インターベンションデバイスの発展(※タップすると拡大画像が表示されます)

表を見ると、現在もカテーテル治療の基本となっているバルーン拡張術・ステント留置術は、いずれも下肢動脈のほうが冠動脈より少し先に開発・実施されています。Dr. Gruntzigがそうしたように、新しいデバイスは、まず下肢で試行され、その後冠動脈に応用されるという流れになっていました。

浅大腿動脈に対する治療デバイスの開発の難しさ

しかし、冠動脈では、バルーン(Plain Old Balloon Angioplasty: POBA)に対するステントの優位性、通常のステント(Bare-Metal Stent: BMS)に対するDESの優位性が、比較的早いペースで確立される一方で、下肢動脈領域では、POBAに対するBMSの優位性が証明されるのは、冠動脈に遅れること12年、BMSに対するDESの優位性が示されるには9年遅れをとっています。

この遅れは浅大腿動脈に対する治療デバイスの開発の難しさが原因です。

下肢動脈といっても、その全長は非常に長く、おおまかには大動脈腸骨動脈領域、大腿膝窩動脈領域、膝下動脈(脛骨腓骨動脈)領域の3区域に分けられます。現在の臨床では、腸骨動脈領域は、ステント留置後の再治療率・再狭窄率が低く、長期成績が比較的安定しているといえます。日本のレジストリー研究では、ステント留置後の一次開存率は、一年で92.5%、2年で86.3%となっています[6]。一方、大腿膝窩動脈領域以遠ではいまだ満足できる長期成績が得られていません。

その原因は、大腿膝窩動脈の性質に起因しています。腸骨動脈は骨盤内に存在し、外力を受けることがほとんどないのに対し、大腿膝窩動脈は人体の中で最も長い動脈であり、様々な外力、すなわち屈曲や筋肉による圧迫にさらされます。これらはステント留置後の過剰な新生内膜増殖やステント破損(fracture) の原因となります。さらに、びまん性病変や石灰化病変が多いことも特徴で、バルーンやステントによる十分な内腔確保を困難にします。また、下流の膝下動脈に狭窄や閉塞があれば、上流の血流も停滞します。

これらの要因が大腿膝窩動脈領域における各種デバイスの長期開存を難しくしていると考えられています。1985年、初の下肢動脈ステント留置が実施されてから、浅大腿動脈領域においてPOBAに対するステントの優位性が示されるまで21年かかっているのは、こうした理由によります(なお、大腿動脈よりさらに遠位の膝下動脈も、同様に外力を受けるうえ、血管径が3mm程度と小さいため、さらに長期開存性は低く、血管内治療の適応は、下肢切断の危機に瀕した症例のみに限定されます)。

2011年、冠動脈より9年遅れでDESの優位性が認められた、とはいっても、冠動脈のときのような強いインパクトを与える結果ではなく、未だ浅大腿動脈DESの有用性は、冠動脈DESのように揺るぎないものとはなっていません。

外力に強いデバイスを、病態に合わせ使用

このように、大腿膝窩動脈領域のカテーテル治療は、現時点ではまだ完成されたものとは言えませんが、その長期成績は徐々に向上してきています(下記参照)。

■最近の下肢動脈デバイスの治療成績(※クリックすると拡大画像が表示されます)

■最近の下肢動脈デバイスの治療成績(※タップすると拡大画像が表示されます)

外力の影響を受けやすい血管に適した治療として、薬剤コーテッドバルーン(DCB)による治療が期待されています。ステントのような余計なものを置かずに、血管の本来の状態を温存するわけですが、個人的には、偏心性の狭窄や石灰化病変には、どう考えても適しているとは思えませんので、バルーンに対する反応が悪いところだけspotでステントを置く、といった工夫があるとより良い成績が得られるかもしれません。

ステントグラフト“VIABAHN”も、期待のデバイスとして2016年に日本でも認可されました。血管の内腔に、薄い被膜で覆われたステントを留置するため、ステントの隙間から内膜増殖をきたすことがありません。一方、閉塞してしまうとグラフト全体が血栓で充満し、再度の血管内治療が困難になること、グラフトにより側副血行路の入口部をふさいでしまうと閉塞時に症状が術前よりさらに悪化する懸念があること、などの理由で、個人的には適正な病変がかなり絞られる印象を持っていますが、うまく使えば長期開存が望めます。

“SUPERA”ステントも、屈曲や外力に強いbiomimetic(生体模倣型)ステントとして期待されています。高度石灰化部位でも、なかなか良好な拡張が得られます。私は、DCBとSUPERAの併用はよいのではと思っていましたが、海外の研究では、長めの病変を対象としているとはいえ、2年開存率55.1%という微妙な結果でした[7]

以上、大腿膝窩動脈領域のカテーテル治療の問題点について述べましたが、誤解しないでいただきたいのは、あくまで“再狭窄ゼロ、再発率ゼロ”を目指す視点に立ったうえでの問題点であり、現状においても決して不十分な治療ということではありません。間欠性跛行を劇的に改善させ、虚血性潰瘍症例の切断回避のために絶対不可欠な、きわめて重要な治療であることは間違いありません。

当院では、患者様の病状・病変に応じて適切な治療法を熟慮したうえで、積極的にカテーテル治療を行っておりますので、症状に悩まれている患者様はぜひともご相談、ご紹介ください。

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Reference

  • Holmes DR, Shaughnessy CO, Caputo RP, Kereiakes DJ, Williams DO, Teirstein PS, et al. Sirolimus-Eluting Stents versus Standard Stents in Patients with Stenosis in a Native Coronary Artery. New England Journal 2003:1315–1323.
  • Albert Schweitzer Hospital, Lambarene, Gabon, and Institute of Tropical Medicine, University of Tübingen, Tübingen G. A Polymer-Based, Paclitaxel-Eluting Stent in Patients with Coronary Artery Disease. New England Journal of Medicine 2011;365:687–696.
  • Hermiller JB, Nikolsky E, Lansky AJ, Applegate RJ, Sanz M, Yaqub M, et al. Clinical and angiographic outcomes of elderly patients treated with everolimus-eluting versus paclitaxel-eluting stents: three-year results from the SPIRIT III randomised trial. EuroIntervention 2011;7:307–313. doi:10.4244/EIJV7I3A54.
  • DOTTER CT, JUDKINS MP. Transluminal Treatment of Arteriosclerotic Obstruction. Circulation 1964. doi:10.1161/01.cir.30.5.654.
  • Barton M, Grüntzig J, Husmann M, Rösch J. Balloon Angioplasty – The Legacy of Andreas Grüntzig, M.D. (1939–1985). Frontiers in Cardiovascular Medicine 2014;1:1–25. doi:10.3389/fcvm.2014.00015.
  • Soga Y, Iida O, Kawasaki D, Yamauchi Y, Suzuki K, Hirano K, et al. Contemporary outcomes after endovascular treatment for aorto-iliac artery disease. Circulation Journal 2012;76:2697–2704. doi:10.1253/circj.CJ-12-0492.
  • de Boer SW, de Vries JPPM, Werson DA, Fioole B, Vroegindeweij D, Vos JA, et al. Drug coated balloon supported Supera stent versus Supera stent in intermediate and long-segment lesions of the superficial femoral artery: 2-year results of the RAPID Trial. J Cardiovasc Surg (Torino) 2019;60:679–685. doi:10.23736/S0021-9509.19.11109-3.
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