胸部・腹部大動脈瘤

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胸部大動脈瘤

概要

非解離性胸部大動脈瘤は基部、上行、弓部(遠位弓部)、下行、胸腹部に分類される。日本胸部外科学会が2016年に集計した2014年のAnnual report[1]では胸部非解離性大動脈瘤に対する手術は年間9765例行われており、うち5044例(52%)が基部・上行弓部置換術、774例(8%)が下行・胸腹部大動脈瘤であった。ステントグラフト内挿術は3922例(40%)であった。ここでは特に当センターで扱うことが多い上行・弓部大動脈瘤に対して解説する。

手術適応

大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン[2]では最大短径50-60mmの無症候性紡錘状胸部大動脈瘤においては全身状態を考慮し、耐術能があると判断されれば手術適応としている。下行・胸腹部大動脈瘤においては手術による下肢対麻痺の頻度が高く、手術適応としては内科的治療による破裂、解離のリスクとの比較により大動脈径60mm前後が妥当な基準とされている。また半年間で5mm以上の拡大を認める場合も手術適応である。先天性2尖弁やMarfan症候群など遺伝性結合織疾患を有する場合には45mm以上で手術適応とされる。嚢状瘤は紡錘状瘤よりも破裂しやく、破裂した場合のみならず切迫破裂の場合も迅速な診断の後に早急に手術を行うべきである。

当センターでの治療の特長

当センターでは近年、上行・弓部下行にわたる広範囲胸部大動脈瘤を扱うことが多く、従来の上行弓部置換術(TAR)に加え、open surgeryにステントグラフト内挿術を組み合わせたOpen Stent Graft(OSG)またはFrozen Elephant Trunk(FET)を用いることが多くなってきているため、特に本法について解説する。

OSGはKatoらが1999年に発表した方法で、弓部置換術の末梢側吻合をステントグラフトで行い、低侵襲化を図った方法である[3]。FETとは同義で用いられる[4]。上行弓部置換術を行う際に、循環停止、選択的脳灌流下に遠位弓部から下行大動脈に向けてOSGを内挿することで末梢側吻合を完成させる。通常の上行弓部置換術においては末梢側吻合の術野が深くなり、吻合に難渋することがあるが、本法ではより手前で吻合が可能となったため、ハンドリングが良好となり、出血の軽減につながるのと、左反回神経麻痺の回避もでき、1期的に治療が完了するので有用な方法であると考えている。また、末梢側に治療を追加する場合もOSGを吻合に用いることができるのでopen surgery にせよ、胸部ステントグラフト内挿術にせよ追加手技を行う場合には有用である。現在は国産OSGとしてFrozenix(日本ライフライン)が保険償還可能となっている。利点が多い術式ではあるが、欠点としては対麻痺の発症が従来と比して多いとされてきた。しかしながら、術前に造影CTでAdamkiewicz動脈の同定を確実に行ったり、ステントグラフトのdeploy時に大腿動脈より送血してair抜きを行いつつdeploy したり、様々な工夫をすることで、当センターにおける大動脈解離症例を含めたTAR+OSGの22例中、術後対麻痺を来した症例は0例(0%)である(2018年度実績)。Open surgeryに加え、解剖学的基準を満たし、患者の耐術能、frailtyを考慮し、open surgeryがハイリスクであると考えられた症例に対して、胸部ステントグラフト内挿術(Thoracic Endovascular Aortic Repair:TEVAR)を行っている。特に遠位弓部大動脈瘤に対しては、ステントグラフトによって閉塞が必要となった頚部分枝の血流を維持するためにdebranching TEVARも積極的に行っている。

実績

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参考文献

  • Thoracic and cardiovascular surgery in Japan during 2014 : Annual report by The Japanese Association for Thoracic Surgery. Committee for Scientific Affairs, The Japanese Association for Thoracic Surgery, Masuda M, Okumura M, Doki Y, Endo S, Hirata Y, Kobayashi J, Kuwano H, Motomura N, Nishida H, Saiki Y, Saito A, Shimizu H, Tanaka F, Tanemoto K, Toh Y, Tsukihara H, Wakui S, Yokomise H. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2016 ;64:665-697.
  • 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告).大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_h.pdf
  • New operative method for distal aortic arch aneurysm: combined cervical branch bypass and endovascular stent-graft implantation. Kato M, Kaneko M, Kuratani T, Horiguchi K, Ikushima H, Ohnishi K. J Thorac Cardiovasc Surg. 1999 Apr;117(4):832-4.
  • The frozen elephant trunk technique for treatment of thoracic aortic aneurysms. Baraki H, Hagl C, Khaladj N, Kallenbach K, Weidemann J, Haverich A, Karck M. Ann Thorac Surg. 2007 Feb;83(2):S819-23; discussion S824-31.
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