荻窪Doctor’s コラム急性大動脈解離

2020.08.03(2020.09.11更新)

急性大動脈解離とステントグラフト治療

|オープンステントグラフト|上行弓部置換術|残存解離|遠隔期の瘤化|早期のステントグラフト治療|Stanford A型|Stanford B型|

急性大動脈解離とステントグラフト治療

心臓血管外科 医員 浅野竜太

当院は2011年より大動脈スーパーネットワークの重点病院として急性大動脈疾患の受け入れを行っています。急性大動脈解離の割合が多く、緊急手術を要する患者さんも多いです。

急性大動脈解離は大動脈の内膜に亀裂(エントリー)が入り、そこを起点として大動脈壁が裂ける病気で、上行大動脈に解離が及んでいるStanford A型とそれ以外のStanford B型に大別されます。基本的にStanford A型は緊急手術(人工血管置換術)が必要です。当院ではStanford A型の急性大動脈解離に対してオープンステントグラフトを用いた上行弓部置換術を積極的に行っています。この術式は広範囲の解離部分に対して治療効果が得られる利点があります。Stanford B型はまず降圧、安静による保存的治療が選択されますが、臓器虚血や大動脈破裂などがある場合は緊急手術が必要です。

Stanford A型、B型いずれにおいても大動脈解離は急性期を乗り越えることが重要ですが、胸部大動脈から腹部大動脈まで広範囲にわたって解離した大動脈を根治する(解離した部分をなくす)ことは難しいです。解離が残った部分が遠隔期に拡大して瘤化し、手術が必要となることもあります。

胸部大動脈ステントグラフト治療は動脈瘤に対する低侵襲治療として2008年から保険適応となった治療法です。2015年に大動脈解離へ適応が拡大されました。ステントグラフトを解離した大動脈に内挿することで、大動脈の内膜の亀裂(エントリー)を閉鎖して、解離して生じたスペース(偽腔)を縮小させ、もとの血液の通り道(真腔)を拡大させます。

以前は降圧、安静による保存的治療が主流であったStanford B型急性大動脈解離に対して、最近は積極的なステントグラフト治療が行われてきており、良好な成績が報告されています。急性期に大動脈解離に治療介入することで、遠隔期に残存解離部分が瘤化することを予防する効果も期待されています。

当院でもStanford B型解離ならびにStanford A型への人工血管置換術後に残存した解離部分に対して、遠隔期の瘤化が懸念される場合は早期にステントグラフト治療を行っています。治療介入のメリットとリスクの評価を常に行っていくことは必要ですが、低侵襲治療の進歩によって、より良い治療成績を目指して戦略も変化しています。

【70代後半 男性 急性大動脈解離Stanford B型】
急性期は保存的治療ののち退院。
その後、外来でのCT検査で胸部下行大動脈の大きなエントリーを認めたため、胸部大動脈ステントグラフト内挿術を施行した(発症より83日後)。
術直後より偽腔閉鎖、真腔拡大を認めている。

参考文献

1. Xiang D et al. Comparison of mid-term outcomes of endovascular repair and medical management in patients with acute uncomplicated type B aortic dissection. J Thorac Cardiovasc Surg, 2020. Pii:S0022-5223(19)40469-8. Doi:10.1016/j.jtcvs.2019.11.127

2. Uchida T et al. Thoracic endovascular aortic repair for aortic dissection. Ann Vasc Dis 2018;11:464-72.

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